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ニック・ランドと新反動主義 現代世界を覆う<ダーク>な思想 木澤佐登志

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ニック・ランドと新反動主義


東洋思想では、この世は陰と陽のバランスで成り立っていると言われています

光と闇、太陽と月、男と女など、あらゆるものは相反する2つのものによってお互いが存在しています

いま私たちは、民主主義と資本主義経済というプラットフォームの上で暮らしています

しかし、このプラットフォームが盤石なものであるあるとも限りません

仮に、いまのプラットフォームを「陽」とすれば、この本に出てくるピーター・ティール、カーティス・ヤーヴィン、ニック・ランドらリバタリアン(個人的な自由、経済的な自由の双方を重視し、国家や政府の廃止を理想とする人達)が提起する新反動主義という思想は「陰」に当たるのかもしれません

陰陽は常に揺れ動きながらバランスをとるものなのです

 

 

本の冒頭に出てくるペイパルマフィア(ペイパル創業者)ピーター・ティールは

私はもはや自由と民主主義が両立できるとは信じていない

と言い放っています

これらの現実に直面して、人間は絶望するかもしれない。自身の地平が政治によって限定されているとしたら。しかし私は絶望しない。なぜなら私は、私たちの未来の可能性が政治によって包含されているとはもはや信じていないからだ。私たちの時代におけるリバタリアンの重要な使命は、そのあらゆる形態における政治から逃走する道を見つけることだ

ピーター・ティール リバタリアンの教育

リバタリアンは「イグジット」というコンセプトを対置させる。民主主義制度のもとで愚直に「声」を張り上げるのではなく、黙ってその制度から立ち去って、新しいフロンティアを開拓していく。これこそが、リバタリアンが選択すべきもっとも賢明なプログラムとなるだろう。

と、本書にはあります。そして、そのコンセプトを文章でヴィジュアライズしたのが、2章目に出てくるカーティス・ヤーヴィン

国家は企業のように運営されるべきであるとみなされる。まず国家は一人のCEOを投票によって選出する。選ばれたCEOには主権、つまり国家に対する一切の所有権が与えられる。すなわち、CEOは専制君主として振る舞う権利を持つ。ただし、ここで支配者と被支配者の関係性は、CEOとシェアフォルダーの関係性とほぼ同義とみなされていることに注目しよう。つまり、CEO的な君主が相対するのは、国民というより自社の株主なのである。

CEOは自身が保有する国家=企業(gov-corp)の利潤を最大化するように努めなければならない。というのも、CEOが国家=企業の運営に失敗した場合、国民=シェアフォルダーはそのCEOが治める国家=企業から去り、別のCEOが治める国家=企業に自由に移住していくだろうから。つまり、いわば企業間競争のようなものが国家間で発生しいるわけだ。国家=企業は都市国家のような、なるべく小規模の形態が望ましいとされる。新官房学における国家=企業は、民主主義的な「ヴォイス」ではなく、声なき「イグジット」という概念をベースにデザインされている。

その国家のCEOになる人物とはどのような人物なのだろうか?という点について、カーティス・ヤーヴィンは明確にしていないようです

著者が指摘しているのは、

その専制が全体主義と暴力に傾倒していかないという保証が、その専制君主一人に依存しているというのは、いかにも不安定で危ういシステムなのではないか。もちろん、宇宙人や超知性的なコンピュータであれば話は別であろうが・・・。

 

宇宙人や超知性的なコンピュータ?

 

そこでイメージするのが現在の株式市場の取引

現在の株取引にはクオンツファンドと呼ばれる、いわゆるAIが高速で自動取引を行なっており、ファンドマネージャ(人間)の取引は1割にも満たないそうです

「人間VS人工知能」投資の世界ではトンでもないことになっていた
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/54691

そして、クオンツファンドがジャッジした結果が現実社会に影響を及ぼすようになってきています

 

バイオテクノロジー、ナノテクノロジー、ロボティクスなど様々な領域で研究開発され、実装が進むテクノロジー

いまはまだ、インターネットの中でよちよち歩きしているように見えるAI的なもの(ビッグデータから類推されるレコメンデーションなど)は、近い将来、その他のテクノロジーと融合し、人間の意識、感情、さらには肉体レベルまでに及んでいくでしょう

こういったテクノロジーの進化により得られるメリットがある一方デメリットもあります

例えば、様々な治験情報から最適な治療を施し健康を維持できるようになることは望ましいことだと思います

一方で、そのビッグデータとネットワークを恣意的に活用し、人の感情をコントロールし行動を促すことも可能です

そして、いまはまだAI的なものを人間がコントロールする前提があると思いますが、それが最終的にどのようなものとして存在するのかはまだわかりません

クオンツファンドのように、マシーンが自律的に意思決定していくとなると、マシーンが下した決定に対し、多くの人間がネガティブな感情を抱いたしてもコントロールできるものではなくなるかもしれません

 

(宇宙人はさておき)それが超知性的なコンピューターなのか?

それが、国家的なものを統治するようになるのか?

それがどのようなもので、私たちにどのような影響を及ぼすのか?

 

続く章に登場するニック・ランドは、この未知なるものへの対処法を「受け入れる」しかないとしています

シンギュラリティを、未来から到来してくる全き未知のものを受け入れるためには、ありとあらゆるリミットを外さなくてはならない。ランドは既存の秩序と人間性を保守しようとするあらゆる体制やイデオロギー(例えば「人間の安全保障」)を「ヒューマン・セキュリティ・システム」と名付け批判する

神の審判を乗り越えよ。メルトダウン、すなわち、地球規模のチャイナ・シンドローム。バイオスフィア(生物圏)はテクノスフィアへと解体していき、末期的な思弁的バブルの崩壊、そしてキリスト教社会主義の終末論を堕落させる(破壊されたセキュリティの核まで達する)革命が招来する。それはお前のTVを食い、お前の口座アカウントを侵食し、お前のミトコンドリアからゼノデータ(xenodata)をハックするのを待っている

ニック・ランド メルトダウン

と言っています

著者はこう言った加速主義の考え方を以下のようにまとめています

加速主義は様々な派閥が入り乱れているが、すべてに通奏低音として共通するのは、共産主義や人間といった価値観が失効したポスト冷戦/ポスト・ヒューマンの時代におけるオルタナティブな社会の模索である
(中略)
今後AIの興隆やテクノロジーの発展が、労働のあり方や社会のあり方に対して根本的な価値観の変更を迫るであろうことは避けがたい。加速主義が提示するオルタナティブは今後もさらに注目されるだろう。

 

 

加速主義なり現代思想は、単に思考のお遊びのようにも思えますが、こういったダークサイド的な視点は、ものごとがネガティブな方に傾く可能性を示唆してくれているようにも思えます

いや、それがネガティブなものなのか、ポジティブなものなのかすらわからないとも言えるかもしれません

一方で、サピエンス全史、ホモ・デウスの著者であるユヴァル・ノア・ハラリはTEDトーク「なぜファシズムは魅力的なのかーそして個人データがこれに力を貸す仕組みとは」の中でこのように語っています

人工知能や機械学習の台頭により膨大な量の情報を一ヶ所で効率的に処理し一ヶ所で全ての決定を下すといったことも可能になるかもしれません。そうなれば集中データ処理の方が分散データ処理よりも効率が良くなります。

20世紀の独裁体制にとって負担になっていたのは情報を一ヶ所に集中する試みでしたが、それこそが最大の利点になるかもしれません。

未来の民主主義を脅かすもう一つの技術面の脅威は、情報テクノロジーとバイオテクノロジーの融合です。

これにより自分よりももっと自分のことを知っているアルゴリズムが生まれる可能性があります。

このようなアルゴリズムが生まれると政府など外部システムが私の意思決定を予見するだけでなく、私の感情や情動を操ることができるようになります。

独裁者は私に十分な医療制度を提供できないかもしれませんが、私が独裁者を愛し敵対者を憎むように仕向けることができます。

民主主義がこのような変化を切り抜けるのは難しいでしょう。

なぜなら結局のところ、民主主義とは人間の合理性ではなく、感情によって左右されるからです。

選挙や国民投票では「どう考える」ではなく「どう感じるか」を問われています。

そしてもし誰かが人の感情を効果的に操作できるとしたら、民主主義は感情を操る人形劇になってしまいます。

そして、このような危機に対抗するには、

技術者はデータを独裁者が集中管理できないよう分散すること

その他の人は、データを支配するものに操られないようにすること

であるとしています

私たちが直面する第一の問いは「誰がデータを支配するのか」です

自由民主主義の敵のやり方は、私たちの感情をハッキングすることです。Eメールや銀行口座ではなく、私たちの恐怖や憎しみ虚栄心といった感情をハッキングし、次にこうした感情を利用して民主主義を二極化させ、内側から破壊します。

実はこれは、シリコンバレーが商品を売るために開発した手法です。

しかし今は全く同じ手法で民主主義の敵が恐怖や憎しみや虚栄心を売るのに使っています。

こうした感情をゼロから生み出すことはできません。

私たちに内在している弱さを見つけ出しそれを攻撃に使うのです。

だからこそ私たち全員の責任において、自分の弱さを認識し、それが民主主義の敵の手に渡って武器にされないようにしなければなりません。

自分自身の弱さを知ることで、ファシストの鏡という罠にかからずに済みます。

既に説明した通り、ファシズムは私たちの虚栄心を利用します。

私たちを実際よりもずっと美しく見せるのです。

それがファシズムの誘惑です。

しかし自分のことをよく理解すれば、こういったまやかしに乗せられることもありません。

誰かがあなたの前に鏡を置いたとして、それがあなたの欠点を全て覆い隠し自分を実際よりもずっと美しく、ずっと重要に見せる鏡だとしたら、壊すしかありません。

 

 

最終的に人間は意識をインターネット上にアップロードし不死なる存在になるのかもしれません

ただ、有機物として生きている間は、生命を維持していく必要があります

冒頭に出てくるペイパルマフィアのピーター・ティールは、気象変動やこれから起こるかもしれない動乱や戦争に備え、2017年、西側の考え方をベースにしながら地理的にそれらの影響を受けにくいニュージーランドに地下シェルター付きの193ヘクタールもの土地を購入しています

同じくペイパルマフィアでテスラモーターズのイーロン・マスクは、人口爆発や太陽の活動とそれに伴う気象変動により人類が地球に住むことができなくなることを想定し、Space Xを立ち上げ火星移住を目指しています

少なくとも、規模の大小はあるにせよ、自分の存在を脅かすなにかが起こりうる可能性があるということを認識し、サヴァイヴしていく方法を考えることは必要なのだと思います

 

加速主義者の視点とヒューマニズムの視点から見えてくものは、「テクノロジーの進化」も「環境の変化」も個人ではどうすることもできません

そして、この世は常に揺れ動いており、固定された状態というものはありえません

そうしたものに対しては受け入れるしかないということ

ただし、受け入れるしかなかったとしても、自分の肉体と精神を脅かすものからサヴァイヴするする術を身につける必要があるように思います

 

気象変動、人口爆発、動乱、戦争などから、物理的に身を守る術を身につけること

そして

膨大なデータとそれを管理し利用するものから、心理的に身を守る術を身につけること

この感情がどこからやってくるものなのかを理解し、それが弱さからくるものであれば、それを自分の中に受け入れ、外部につけ込む隙を与えないようにすること

 

この2つのスキルがこれからの世界を生き抜くために必要なのかもしれません

 

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