本日、アカデミー賞で作品賞を受賞したノマドランド
先週、主人公と同世代?!の母親とレイトショーで観てきました!
アメリカ ネバダ州 エンパイアという街で夫とともに暮らしていた60代女性の主人公。2008年のリーマンショックで夫が働いていた工場が閉鎖してしまい、企業城下町だったエンパイアは事実上なくなってしまいます。その後、夫と死別した主人公は、最低限のモノをクルマに詰め込み、残った家財道具をコンテナ倉庫に預け、車上生活を始めるといったところからストーリーが始まります
もともと代用教員をしていた主人公は、移動しながらAmazon倉庫や国立公園の清掃、ファーストフード店などの仕事を渡り歩いていきます
その過程で、同じ境遇に置かれた同世代の車上生活者との交流を通じて、変化していく心模様を映し出しています
劇中で主人公が自分の心情を吐露することはなく、表情から心の内を読み解いて進んでいくドキュメンタリー・ロードムービーのような映画です
ジャック・ケルアックの「路上」(高齢者版)といった感じでしょうか?!
この映画のテーマは高齢者であったとしても経済危機などの外的要因によって住まいや仕事を失い不安定な状況に陥る可能性があるという、現代社会システムの脆さを表す一方、車上生活というノマドな生活を通じて自分の人生を取り戻していくといった側面もあります
ラストシーンで主人公は思い出の詰まった家財道具を手放しますが、その時に感じていたのは、ある種の開放感だったように思えます
ノマドと言うと、ジャック・アタリ氏が「21世紀の歴史 未来の人類から見た世界」(2008年)で記した「ハイパーノマド」=「国々を渡り歩いて仕事をするクリエーター層」を想起させられますが、そういった主体的にライフスタイルをノマド化する人たちがいる一方、状況に流され、住まいや仕事を失い、生活基盤を流動化してしまう人るということです
能動的か受動的かは別として、変化の激しい時代を生き抜く術として、あらゆるオプションに対応できるよう、生活を流動化させておいた方が、逆説的ではあるけれど、安定につながるのかもしれません
そして、ノマド化するためには、長年住み続けた土地や仕事、人間関係、持ち物などを見直していくことがファーストステップになるのでしょう
いままで「安定を生み出している」と思っていたものは、実は自分の心や行動を制限している足枷になっていることもあるのです
自分にとって必要なもの、必要でないものを見極め、身軽になること。それが結果的に自分が生きたかった人生を歩むことに繋がっていくのでしょう
この映画の主人公は、外的変化によってそれらを整理していったように思えます
もし、この話に続きがあったとしたら、本当にしたいことをしている彼女の姿があるのでしょう
いまはまだAmazon倉庫やファーストフード店などテンポラリーな仕事が残っていますが、暫くしたら定型化しやすい仕事は機械に置き換わっていくというのが時代の流れです
もし、これらに頼って生きていくとしたら、再び外部環境に左右される人生になってしまいます
「仕事をしなければいけない」という観念すらも取っ払う必要がある
いまの社会システムの向こう側に自分の幸せがあるのかもしれない
そんなことを感じる映画でした
そしてこの映画、映像がとっても美しい
スクリーンいっぱいに広がるシネマスコープの画面から、その場の空気に佇む香りまで漂ってきそうな感じがします
こんな映像撮れるようになりたいなぁ
ノマドランド、映画館のビッグスクリーンで見るべき映画です!
ちなみに使用しているカメラはArri Alexa MiniとAmira、T1.9のZeiss Ultra Primeレンズを使っているそうです
ノマド 漂流する高齢労働者たち / ジェシカ・ブルーダー / 鈴木素子