8月末に親父が救急車で搬送された
原因は肺炎
もともと腎臓を患っており透析の日々が続いていて、以前のように自由に動き回れない親父の姿は少し寂しそうに見えていた
抗生物質を投与すれば2週間くらいで退院できるんじゃないかと思っていたが、肺炎を繰り返し起こしてしまい、誤嚥性肺炎のリスク回避のため水も食事もストップ
東京にいるときはほぼ毎日見舞いにいっていたが、体力が徐々に落ち始め、いつの頃からか言葉を発することもできなくなってしまった
寝たきりだから身体がしんどいだろうなと思い、首や手足のマッサージをしたり、呼吸がらくになるエッセンシャルオイルを塗ったり、丹田に気を送ったりしていた
ときどき手を握りながら
大丈夫、大丈夫、何にも怖いことなんてないよ
リラックスしてはやくやっつけちまおうぜ!
って声をかけていた
母親と僕が投げかける言葉には表情と目と手で返してくれる
弱い時もあればしっかりした時もある
その握る手の力が徐々に弱まってきているのを感じながら、血液検査結果の推移を見て母親と一喜一憂する日々が続いていた
そして先週末、血圧が低下し始めた
血液透析をしているので血圧が下がると身体に溜まる水を引けなくなる
本来は尿として排泄されるものが体内に残ってしまうので、その水が肺や心臓を圧迫し更に血圧を下げてしまう
木曜の夜から母親と交代しながら病院に泊まり込んでいた
100前後あった血圧が日を追うごとに低下していく
日曜日の未明に母親とスイッチして暫くバイタルモニターをみていたら60台まで下がってきた
やだな
という気持ちを払い除け
1%でも望みがあったらチャレンジするよな?
と親父に話しかけていた
いや、自分に言い聞かせていたのだと思う
母親が病院に戻ってきて暫くしてから血圧が50台まで低下
そして血中酸素濃度の値が急に80まで下がり心拍数が落ちてきた
看護師さんに酸素マスクを着けてもらったが数字は回復しない
呼吸のインターバルが徐々に長くなる
親父、呼吸しろ!
吸ってー!
と耳元で大声で叫ぶと、少し間を置いて呼吸してくれる
でも呼吸するのが精一杯だ
バイタルモニターの数字が徐々に低下していく
お願いだから吸ってくれよ!
僕の叫び声に応えるかのように
力を振り絞って息をしようとしているのがひしひしと伝わってくる
その間、おそらく20分くらいだったと思う
険しい表情が続いていた親父の顔がすっと和らぐ
バイタルモニターの心拍は0
ほんの僅かの時間、呆然とする
わかってるよ、この状態がなんなのか
わかってるよ
どうしようもないけど悔しいよね
なんにたいしてかもわからないけど
でも
すげー頑張ったな、さすがだよ
前日の夜、僕が子供のころ親父がドライブするクルマの中でよくかけていたBilly JoelのInnocent ManをYouTubeで流して一緒に聴いていた
そして手を繋いだ
僕の手のひらを親父の手にゆっくり重ねる
意識して握り返しているのか、自然と指が曲がってきているのかはわからないけれど、それでもちゃんと手を繋げた
なにかよくわからないけれど、たぶん、お互いのなかにある「なにか」が伝わってる感じがした
たとえ親であっても他者の心の内はわからない
分かるのは自分の心だけ
言葉にできたのは
親父と一緒に過ごせてよかったな
楽しかったな
感謝してるよ
また遊ぼうぜ!
いやこんなもんじゃない
自分の心の中でさえも充分理解できていないな
たぶんもっともっとあるんだよ
さて、明日は通夜
僕なりに盛大に送ってやるよ、親父