昨年、沖縄でリノベーションをさせていたく機会を得たとき、南国のエッセンスを室内に取り込もうとアイデアを収集していました
南国の住空間をイメージしたとき、ぱっと頭に浮かんだのがリゾートホテルのヴィラやエアコンがない時代の古民家
どちらにも共通しているのが、強い日差しを避けるために大きく迫り出した軒(のき)、風が通り抜ける開放的な作りであるということ
そんなイメージを探していたときに出会ったのが、今回訪問した中村家住宅です
中村家住宅は北中城大城に現存する沖縄の伝統的な建物
いまから約280年ほど前、1740年ごろに建てられた上層農家の住宅で、沖縄の伝統的建物がもつ要素がすべて入った構成になっています
戦火を逃れ、当時の姿をそのままに残した住宅は少なく、重要文化財にも指定されています
建物の正面は沖縄ならではの琉球石灰岩を加工した石垣になっています
外から建物の中が見えないようにヒンプンと呼ばれており、人の目線だけでなく、魔除けや台風避けにもなっています
こういった、機能的な側面と霊的な意味合いが重なり合っていることもエキゾチックな印象を生み出す要素なのでしょう
ヒンプンの中に入ると大きな琉球石灰岩が敷き詰められた中庭になっています
母屋や離れの縁側からこの中庭を見渡せるようになっており、これも沖縄の古い住宅の特徴のひとつ
離れの縁側
室内と外とは引き戸で区切られ、開け放つと内と外の中間的空間 縁側へと続きます
この縁側と、大きく迫り出した軒(のき)とそれを支える柱が並ぶのが南国住宅ならでは
この建物の柱は農民には使用を許されていなかったチャーギ(イヌマキ)、イーク(モッコク)が使用されているそうです
沖縄はシロアリ被害が多いと言われていますが、チャーギ(イヌマキ)はシロアリに強く古くから高級建材として使われており、戦前の首里城の構造材にもなっていたようです
イーク(モッコク)は赤みがかった硬い木材で、母屋の柱はおそらくイークを使っていると思います
引き戸を開け放った母屋から中庭を望むと、室内を通る風の流れが見えるようです
風を通すことで夏の暑さを凌ぐだけでなく、視覚的な開放感が涼しさを演出しているように思えます
格子状の壁から差し込む日差し
光の動きを意識して設計したものかは定かではありませんが、こういった陰影が生み出されることにより、内と外の繋がりや時の流れを感じることができますね
台所は土間
台所はトゥングワと呼ばれているそうで、ヒヌカン(火の神)が祀られ、朔月(新月)と十五夜の日に拝む習慣があったそうです
沖縄の住宅といえば赤瓦の屋根
明治中頃までは竹茅葺の屋根だったそうですが、それ以降は赤瓦に葺き替えられたようです
屋根の上には瓦の補修をされている職人さんの姿がありました
この瓦を固定しているのがリノベーションでも使用した琉球漆喰
台風が多い沖縄ではこうやって瓦を固定するのが一般的ですが、こういった必然から生まれた景観がその地域ならではの風情を生み出すようになるのですね
左側の黄色味がかったものが最近補修されたもので、右側が補修前のものと思われます
紫外線と風雨にさらされ白化しコンクリートのような質感に変化していくのでしょう
この赤瓦は沖縄で採れるクチャという泥岩でできています。吸水性が高く、雨が降ってもすぐに乾くと同時に熱を気化していくので暑さ対策にもなっているそうです
さらに、大きく湾曲しているのは屋根と瓦の間に空間を作ることで温度の上昇を和らげる効果があるとのこと
その土地で採れる素材を使い、環境に合わせた作りをすることで、その地域ならではの造形と空間が生み出されます
現代の画一化された住宅ではこういったものを生み出すことは難しいでしょうね
この部屋のリノベーションでは、そういった画一化された住空間にしたくなく、沖縄という土地を意識した素材を取り入れ、手作業で仕上げていくことで、効率性を重視したシステマチックな要素を極力排除しています
そういう意味で、この空間はカウンターカルチャーなんです
住空間一つとっても既成の仕組みに抗うことはできるのです。そして既成のシステムが生み出す世界よりこっちの世界の方がオリジナリティがあって心地よいものなのです!